短編創作/バレンタイン前→バレンタイン後





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俺の幼馴染は女子にモテる。
「お前、女子のくせに女子からチョコもらい過ぎだろ。」
「男子より私の方がかっこいいからね。」
「じゃあ来年のバレンタインで勝負だ!
 どっちがより多くのチョコをもらえるか。」
「いいよ~、負けた方は買った方のいうことなんでもひとつ聞くってことで」
ノリとはいえ、自分もよくこんな勝ち目のない勝負をしたものだ。
これが去年の話で、今は一年後、、2月14日である。
「去年の約束覚えてるでしょうね!?
 何させるか考えておかなくちゃね。」
通学路でばったりと出くわした幼馴染は不遜な笑みを浮かべてそう言った。
「わかったわかった。俺が勝ったら下着姿で校庭10周な」
「ば、ばかっ。なに言ってるの。え、えっち。」
頬を赤らめてジト目でこっちを見てくる幼馴染を見るといじめたくなる。
「いつも干してる色気のない下着だろ?見慣れてるから気にするな。」
「え、え、見えてるの、、え、、ふぇぇぇ、、、」
あんなに堂々と干して見られてないとでも思ったのか。
幼馴染の顔は熱を帯びて、燃える様に真っ赤だ。
勝負のことはともかく、日々こんなものんだ。
これが、俺と幼馴染との日常だ。
うちの学校は今はやりの”自由な校風”というやつか
「バレンタインとはいえお菓子持ち込みは禁止だ!」
という教師もおらず、
「せんせー、これあげる!今度のテストおまけしてね!」
「チョコはもらうけど、贔屓はせんぞ。
 ん、、、、、ちょっと中が柔らかいな、ちゃんと固めろよ。」
などというやり取りが公然と行われている。
無精ひげと白衣がトレードマークの担任は、
もぐもぐと女生徒からもらったチョコを順番に味見していた。
他の先生も普通にチョコを受け取ってるみたいだし
この学校にはわいろとか袖の下とかそういう概念はないらしい。平和だ。
一方校長室の前に置かれた「チョコ募集中 みんなの校長」と書かれた箱がむなしい。
可哀想なので「朝礼の話が長いです」と丸文字で書いたメモを入れておいた。
うちの学校はノリがいいのか、
ほとんどの女子が顔見知りの男子や、
もはや顔も知らない男子にまでチョコを配るような風潮がある。
そんな中でチョコの数を集めるのはさほど苦労しなかった。
夏場に体育の授業でやるプールの塩素拾いみたいなものだ。
ちょっと潜ればすぐ集まる。
「ロッカーにあと紙袋2つあるけど、もってくる?」
両手に紙袋をぶら下げた幼馴染と放課後屋上で会った。
しかし、さすがに周りから積極的にプレゼントされる人間は
頑張って集めている人間とはレベルが違うようだ。
「いんや。俺はその紙袋一つ分くらいだ。
 さて、罰ゲームは何にしましょうかお姫様。」
団地の連中でボーリング行った時、カラオケに行った時、
なにかしらにかこつけて勝負する遊びは前からよくあった。
そのたびに俺は、よくわからないドリンクを一気飲みさせられたり
猫耳カチューシャをつけたまま一週間過ごしたりと
酷い目にあわされた。
今回もその流れの延長である。
わさび一本入りドリンクか語尾ににゃんとつけて一週間過ごすか。
わさびドリンク飲んだ後は、3日間は食べ物の味がわかんなかったもんな、、
アレはちょっとやめてほしい。
そんな文字通り”苦い”思い出にふけっているのだが、
幼馴染は罰ゲームに触れようとはしない。
「いや、これは同じ部活の後輩からもらったやつで。」
「こっちはよく遊びに行く~~ちゃんからで。」
みたいなことをしどろもどろと、言うばかり。
「なんかあるのか?」
明らかに挙動が不審な幼馴染を目の当たりにして
そのまま聞いた。直球で聞いた。
あまり気のきかない性格で申し訳ない。
びくぅ、と肩を跳ねさせた幼馴染は
気まずそうな表情を浮かべ、ゆっくりとこちらを振り向いた。
屋上に来てから一度も合わせなかった目が合った。
「これ、さ、、あまりに大差だからさ。
 一個あげるよ。」
幼馴染は大きな紙袋の一番奥から、ピンクのリボンでラッピングされた
赤いチョコらしき箱を取り出した。
「こんな大きなの、おまえにあげたやつに悪いから受け取れないよ」と
いうこともできたのだが、さすがにこうなってしまっては
さすがの自分も分が悪い。気づかないふりもこれ以上は不自然だ。
「こんなに大きなの、気合い入れて作ったやつは
 プレゼントするやつのこと そ う と う 好きなんだろうな」
こんな皮肉を言って、幼馴染を真っ赤にするくらいが限界だった。
ピンクのリボンを超えて、ラッピングの赤に近い色をしている幼馴染。
この距離感が好きだったはずなんだけどな。
「とりあえず、今回の罰ゲームは、
 来年のバレンタインまで付き合うってことでいいか。」
“付き合う”のところを意識し過ぎたせいかイントネーションが変になってしまった。
幼馴染は「ぇ、、ぁ、、ぅん、ぃぃょ」と蚊の消えるような声でうなずいている。
きっとまた来年のバレンタインでは、この勝負をしよう。
その時どんな結果になるかはその時考えればいい。
それまで、このたった短い一年を、これからと変わる一年を楽しもうと
この真っ赤な顔した幼馴染とそれと同じ色をした赤い箱に誓った。
翌週の朝礼で、校長の話は異様なほど短かった。





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