現代の恋愛を再定義した一冊
現代の良くも悪くもこういう側面があるという皮肉みたいな作品に見えた。本作で描かれる恋愛工学という武器はある意味効果的だとは思う。しかしあまりにもラノベ的にテンポよく、新しい強い武器をポンと渡され、成長ではなくその武器でなぎ倒していくような描写が多い。主人公の成長というより、新しい武器の使い方を師匠に習う感じに見えた。
ラストも、傷心の時に出会った女性との恋愛。この顛末を永沢に話せば、細かく客観的に評価させてしまいそうなちょっと陳腐なシチュエーションだった。そこを経てこれからどう生きるかみたいな、ところが見たくなってしまう。青少年向けの創作物ならそこからが描かれるからだ。主人公が後半、恋愛パンチドランカーみたいになっていくのは、ちょっと爽快だった。そして突然終わる日常。調子に乗りすぎていた人物が憂き目を見るというのは、因果応報であり、物語のお約束ではあるが、主人公でもこういう落とし穴がある。本作ではスッキリする要素なのがちょっと不思議でもあった。
ひとりの男として、こういった作品が話題になって積極的に恋愛行動とる男性が増えればいいなとは思う。現実世界の恋愛は楽しかったり、面白かったり、辛かったり、悲しかったりするが、総じて人の成長に必要なものだと思っている。あくまで本作は小説だ。フィクションだ。マニュアルでもない。テクニックを詳細に記したマニュアルに寄せた内容で読みたい気もするし、蛇足なような気もする。そういう余計な気分にさせるだけで本作は十分にその役目を果たしたのかもしれない。
「12個じゃない、12箱だ!」は笑った。
主人公に恋愛工学を教える師匠、永沢さんは最後まで本性を現さなかった気がする。主人公に恋愛工学を教えてどこまでできるか実験だったと言い、主人公と決別した永沢さん。タイトルの「ぼく」とは本当に主人公渡辺のことだったのか?私はこの「ぼく」が永沢、もしくは過去の彼だったのではないかという気がしてならない。できれば彼がここに至るまでの話を読みたい。彼はなぜこんな思想にたどり着くしかなかったのか。『ぼくは愛を証明しようと思う エピソード0(ゼロ)』読みたい。