全120回、ヤングキングアワーズの持ち込み募集コーナー10年間連載していた1ページずつのゆるエッセイ漫画です。水上青年(19)が大学中退したり専門学校に行ったり、苦労しながらいっぱしの漫画家になってゆく過程が描かれています。「熱意に汎用性はない」「月にたかだか16Pも描けない者に連載を任せられん」などコミカルなパワーワードが出てきて、1Pずつということもあり気軽に読み進められます。
編集部に東京に呼ばれるあたりは『アオイホノオ』ぽくていいですね。やっぱ最初の受賞とか状況って新人漫画家はすごいテンション上がるんだろうなぁ。「おれがレギュラーになったら代原はどうするんです?」の本末転倒感も島本和彦っぽい。打ち切りや連載2作目ネーム構想を経て、”社会不信”という言葉を使っていますが、漫画家という仕事を正面から考えた結果だと思います。漫画家を個人事業主として”経営”を考えているのは、当時の若さでもしっかりした青年だったと思います。自分の生活を漫画エッセイにするとどうしても、楽しい部分を言いガチですが、漫画家として食っていくことにコミットしていることを逃げずに描いたのは、これから漫画家になる人たちに誠実さを感じました。
本編で作者も言っている通り、現在の漫画界、出版とは少しずれるかもしれませんが、今でも役に立つ漫画家としての考え方、作劇のテクニックなどを得る事が出来ます。巻末おまけのコマ割り解説漫画はこれだけ掘り下げて一冊の技術書にしてほしいくらい。本編を読んだ後なので、自らが体験したことをひとつひとつ積み上げて技術として確立していったんだろうなという、苦労が忍ばれるポイントです。
いち漫画家の成り上がりエッセイ漫画としても楽しく、水上ファンは必読の一冊です。