書き下ろし「明日のナナメの夕暮れ」収録の文庫版『ナナメの夕暮れ』が発売されました。
本章はハードカバー版と同じなので、今回書き下ろしの「明日のナナメの夕暮れ」について。
『ナナメの夕暮れ』で描かれていたころの自分に想いを馳せる。思い悩む体力が失われ、自分のためではなく人のため、周りのために時間を使うことが増えた。【「この人は外の世界の価値観をとことん疑っているんだな」ということがひしひしと伝わってきた。】と、当時の自分を他人事みたいに捉えることもできるようになった。おまえはそういうやつだったよな、と諭しながらも肯定するような口ぶりに少し驚かされます。6年前から3年前の自分、40歳をまたいでいろいろ変わりゆくる心境が語られています。
“明日の~”という語頭から、読者が期待した「明日のたりないふたり」の裏話も含まれています。ラジオでも語られた、ライブ後のエピソードです。ラジオではリスナーを心配させないように、またエピソードトークとして楽しめるように編集された話になっていました。こちらでは、もう少しシリアスに死を意識した前後が詳しく描写されています。結構やんちゃなエピソードが多い若林さんらしく、手足が動かなくなった時も、どこがどう痛くなって、血管切れたか?など心配したり、怪我慣れしてるなと思いました。自分はこんなに具体的にしっかりと自分の感覚を伝えられないので、すごいな。あと、ライブ後に救急車で運ばれたことを奥様に伝えた時のリアクション、こういうのが若林さんが好きなところなんだろうなと思いました。明日のたりないふたりが総括されて、どういう方向性でラスト漫才をするべきか、いままでのたりないふたりとはなんだったのかという気持ちが、若林さん本人から文書で出されたのはすごくうれしいし、ありがたいなと思います。何度も読み返します。
あと、朝井リョウさんの解説について。”文庫解説”の体をとったものと、”友人”としての2段構えになっていて、本書を色んな人に読んで理解してもらいたいという誠実さが伝わってきました。みんなが読みたかったものと「ナナメの夕暮れ」を読んで感じていたけど、うまく言語化できなかったことが詰まっていて、短いながらも非常に嬉しい解説になっています。自分も、若林さんより少し下の世代で、自分が感じてきたようなことを感じている先輩、少し先を歩いている人が居るんだということで救われてきたところがあります。その先を歩いている先輩が、【どうしても今回の生で世界を肯定してみたかった】と言ってくれてることは大変な幸福です。たりないを詰め込んだ1冊目、家族の死と冒険を描いた2冊目、変わりゆく夕暮れを綴った3冊目、そこから続く4冊目が読みたい。たのむ、読ませてくれ。いまの若林さんが思ってることを知りたいという気持ちを肯定してくれる解説でした。